自社の都合により、予定していた日数のシフトでスタッフを働かせることが出来なくなった場合、企業は原則として休業手当をスタッフに支払わなければなりません。
2020年以降は新型コロナウイルスのまん延防止措置などにより、休業手当の支給に踏み切った企業も多いと思います。
人事労務担当者が、初めて休業手当の支給に関わる場合、実際に支給を進めようとすると、
- アルバイト・パートスタッフは支給対象となるのか
- あるいは休業補償の対象になるのか
- 支給額の計算方法はどうするのか
上記のような疑問点がたくさん出てくるはずです。この記事では、そんな疑問にお答えすべく、気になるポイントをまとめました。
また、会社都合でシフトを減らす場合の注意点はこちらで紹介しています。あわせて参考にしてみてください。
休業⼿当とは?
休業手当とは、使用者(企業・事業主など)側の事情によって休業しなければならない場合に、休業期間中の労働者に対して、その平均賃金の60%以上の手当を支払わなければならない制度のことです。
ここで言う「休業」とは、労働者が労働契約を結んで働く用意があり、働きたいという意思を持っているにもかかわらず、働けない状況のことです。
また、休業手当は、雇用形態に関係なく支給されます。正社員・契約社員・派遣社員・アルバイト・パート関係なく、支給されなければならないものです。
休業補償との違い
休業手当と似たような制度の一つに「休業補償」があります。こちらは休業手当と少し支給の意味合いが異なり、業務中・通勤中のケガや病気によって療養を余儀なくされた場合に、従業員に支払われる補償のことです。詳しくは、以下の記事をご覧ください。
アルバイトへの休業⼿当について
アルバイト・パートスタッフに休業手当を支給されるケースは、単純に労働者側に「働きたい気持ちがあるのに働けない」というだけでは不十分です。
あくまでも「使用者側の責任」によって、アルバイトが予定していたシフトで働けない場合に限られます。
アルバイト・パートスタッフなどの休業手当の支給手続きを進めるためには、以下にお伝えする内容を理解しておきましょう。
休業⼿当の⽀給が必要となる休業ケース
企業の都合で従業員が働けず、休業手当の支給が必要だと判断される場面としては、以下のようなケースが該当します。
- 企業側の故意または過失による休業
- 経営不振による休業
- 資材不足による休業
- 設備や工場の機械不備、欠陥、検査等による休業
- 作業に必要な従業員数が足りない場合の休業
- 運転資金不足による操業停止(全部または一部)
- 親会社の経営不振を受けての休業
- 労働者が所属しない組合のストライキなどで企業が休業した場合
- 電気など燃料の供給不足、夏期の節電対策に伴う休業
ただし、あくまでもこれらのケースは「原則として必要」なのであり、豪雨や地震といった自然災害で公共交通機関が使えない場合は、「使用者側の責任」を問われない可能性が高いでしょう。
休業手当の対象者
使用者の休業手当の支給が妥当とされる状況下において、支給対象となる人は、概ね以下の通りです。
- アルバイト、パートスタッフ
- 日雇労働者
- 派遣社員
- 一斉休業により休業した労働者(企業等の自発的なもの)
なお、自社の業務とは別にダブルワーク・副業に携わっているスタッフに対しても、自社との雇用契約がある以上は、休業手当の支給をしなければなりません。
休業⼿当の⽀給額の計算方法
休業手当の支給額の計算方法ですが、基本的な計算式は共通です。
休業手当=1日の平均賃金×0.6×休業日数
問題となるのが、1日の平均賃金の求め方で、正社員、パート・アルバイトスタッフ、日雇労働者などで計算方法が変わってきます。
ここでは、一般的なパート・アルバイトのケースと、日雇労働者(アルバイト含む)のケースについてお伝えします。
●一般的なパート・アルバイトの平均賃金の求め方
一般的なパート・アルバイトの場合、時間給制に該当するスタッフが多く、平均賃金を計算する際は以下の2通りの計算によって支給額を決定します。
- 直前の賃金締切日からさかのぼって3ヶ月間の賃金総額を、その期間の総日数で割り算した額
- 直前の賃金締切日からさかのぼって3ヶ月間で従業員に支払われた賃金の総額を、その期間の労働日数で割り算した金額の60%(最低保証額)
例えば、
【時給1,000円・1日5時間・通勤手当1日400円・賃金締切日毎月末日】
【労働日数:3月は10日勤務、4月は6日勤務、5月は9日勤務】
上記の条件の場合、以下のように賃金総額の計算ができます。
3月(3/1~3/31):給与50,000円、通勤手当4,000円
4月(4/1~4/30):給与30,000円、通勤手当2,400円
5月(5/1~5/31):給与45,000円、通勤手当3,600円
合計:給与125,000円、通勤手当10,000円
上記の条件の場合、以下のように賃金総額の計算ができます。
- :(125,000+10,000)円÷(31+30+31)日≒1,467円39銭
- :(125,000+10,000)円÷(10+6+9)日×60%=3,240円
となるので、最低保証額である②の3,240円が平均賃金となります。
●日雇労働者(日雇いバイト含む)の平均賃金の求め方
日雇労働者の平均賃金を求める場合、日によって勤務先が異なるケースもあるため、以下の2つの計算式を用います。
- 勤務先が1ヶ月以上同じ場合【1ヶ月間に支払われた賃金総額÷その間の総労働日数×73%】
- 勤務先が日々異なる場合【当該事業者で1ヶ月以上働いた同種労働者の1ヶ月間にあたる賃金総額 ÷ その間の同種労働者の総労働日数 × 73%】
例えば、①のケースで、
【日給10,000円・25日勤務】
上記の条件の場合、以下のように平均賃金の計算ができます。
250,000円÷25日×73%=7,300円
休業⼿当の⽀払いの流れ
休業手当を支払う際の手順については、以下のような流れで進めていきます。
- 賃金支払日の確認
- 休業手当の支給額計算
- 従業員への支払い
②・③に関しては、計算式は違うものの、基本的には賃金を支払うのと同じですから、通常の給与同様に振込手続きを進めれば問題ないでしょう。
担当者が注意すべきなのは、①賃金支払日の確認です。賃金支払日の確認が必要なのは、休業のタイミングが賃金締切日をまたぐ場合を想定して、締切日以前と翌日以降で支払日が分かれる場合があるからです。
仮に、「賃金締切日:毎月末日、賃金支払日:翌月20日」の条件で休業する場合、休業日がいつまでかによって、休業手当の支払いタイミングが変わります。
休業日が翌月を含まない場合は、当月分のみ翌月に支払えば問題ありませんが、翌月を含む場合は「翌月・翌々月」の2月にわたり休業手当を支払うことになります。
休業手当を支払う際は、この点に注意して支払手続きを進めましょう。
休業⼿当に対する助成⾦を活⽤しよう!令和4年3⽉まで延⻑した雇⽤調整助成⾦について
雇用調整助成金とは、雇用調整を実施する事業主に対して休業手当などの一部を助成する制度です。
もともとは「経済上の理由によって事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るため」の制度として運用されてきました。
そのため、支給の条件が厳しく該当するケースは限られていました。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例が実施され、以下の条件を満たすすべての業種に条件が拡大されています。
- 新型コロナウイルス感染症の影響により経営環境が悪化し、事業活動が縮小している
- 最近1ヶ月間の売上高または生産量などが、前年同月比5%以上減少している
- 労使間の協定に基づき休業などを実施し、休業手当を支払っている
より詳しい内容については、以下の記事をご覧ください。
まとめ
休業手当の支給対象には、正社員だけでなく、アルバイト・パートスタッフや日雇労働者も含まれます。
支給にあたり、平均賃金の計算方法には若干違いがあるものの、基本的な公式も同じです。
条件に該当する場合は、手続きの流れを把握した上で、速やかに準備を進めましょう。