新型コロナウイルスの影響によって、事業活動の縮小を迫られた企業は多いでしょう。
パート・アルバイトスタッフをシフトに組み込めなくなり、休業手当の支給に動いた企業も少なくありません。
一方で、労働者に対する休業手当の支給については、金銭的な事情から厳しいと考えている事業主も多いはずです。そのような企業にとって役立つのが「雇用調整助成金」です。
この記事では、雇用調整助成金の概要と、助成を受ける条件・申請方法・計算方法などについて解説します。
コロナ特例で拡充、パート・アルバイト人材にも適用可能な雇用調整助成金
雇用調整助成金とは、雇用調整を実施する事業主に対して、休業手当などの一部を助成する制度のことです。
事業主が労働者を出向させて雇用を維持した場合も、雇用調整助成金の支給対象となります。
本来、雇用調整助成金は、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための制度です。そのため、受給要件が非常に細かく、手続きの煩雑さも申請を妨げるハードルの一つとなっていました。
しかし、新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例が実施されたことで、支給対象となる事業主が増加しました。助成率・上限額の引き上げも行われ、小規模事業所に対しては助成額の計算時に平均賃金額の算定が簡略化されています。
総じて支給のハードルが下がったことから、今まで雇用調整助成金の受給を見送っていた事業主にとっては、魅力的な選択肢になるでしょう。
雇用調整助成金は、パート・アルバイト人材も助成の対象となる
雇用調整助成金の助成対象となる労働者は、支給対象となる事業主に雇用されている、雇用保険被保険者です。
つまり、自社で雇用保険に加入しているスタッフなら、パート・アルバイトスタッフであっても助成の対象者としてカウントされます。
しかし、以下のようなスタッフの場合は、雇用調整助成金の助成対象外となります。
- 解雇を予告されている人
- 退職願を提出した人(提出日までは対象労働者となる)
- 事業主による退職勧奨に応じた人(提出日までは対象労働者となる)
- 日雇労働被保険者・昼間学生アルバイトスタッフ など
ちなみに、雇用保険被保険者以外の人に対する休業手当に関しては「緊急雇用安定助成金」の助成対象となります。
いつまで続く?雇用調整助成金の特例措置
新型コロナ禍の影響にともなう特例措置は、令和3年4月1日~11月30日までが期限となっていました。
しかし、厚生労働省は特例措置を令和4年3月まで延長すると発表しており、12月末までは11月以前の助成内容が継続される予定です。
(参考:厚生労働省「12月以降の雇用調整助成金の特例措置等について」)
よって、令和3年11月現在の段階では、当面のところ特例措置が終了してしまうおそれはないものの、今後の感染状況次第で継続・終了の判断が下されるものと推察されます。
※2022年10月5日追記
2022年9月30日に特例措置の延長が発表され、現状11月30日まで実施されることとなっています。特例措置の内容に関しては、厚生労働省公式ページをご覧ください。
自社に助成対象となるスタッフがいる場合は、速やかに申請を進めたいところです。
雇用調整助成金の支給対象となる条件
雇用調整助成金は、受給要件が複雑で、しかも業務や企業規模が限定されていたことから、支給のハードルは高めでした。
しかし、新型コロナ禍の特例措置によって、支給対象となる事業主は、以下の条件を満たすすべての業種にまで拡大されました。
- 新型コロナウイルス感染症の影響により経営環境が悪化し、事業活動が縮小している
- 最近1ヶ月間の売上高または生産量などが、前年同月比5%以上減少している※対象期間の初日が令和4年10月1日以降の場合は10%以上減少(2022年10月5日追記 )
- 労使間の協定に基づき休業などを実施し、休業手当を支払っている
また、上記のうち2に関しては、比較対象とする月について柔軟な取り扱いが認められています。
1年前の同じ月と比較して要件を満たさない場合は、2年前の同じ月との比較ができます。
さらに、そのいずれとも要件を満たさない場合、休業した月の1年前の同じ月から休業した月の前月までの間の、適当な1ヶ月との比較が可能です。
参考:厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「支給対象となる事業主|雇用調整助成金ガイドブック」
雇用調整助成金の支給対象となるケースを紹介
新型コロナ禍の特例措置以前は認められていないケースだったり、支給対象となるのかあいまいなケースのアルバイトスタッフがいたりすると、自社の状況で手続きができるかどうか不安を感じてしまうかもしれません。
そこで、支給対象となるかどうか判断に迷うケースについて、以下に主なものをまとめました。
▲短時間の休業の場合
新型コロナウイルスの影響を受けている事業主は、短時間休業でも雇用調整助成金を活用できます。
本来、短時間休業によって雇用調整助成金を受給する場合、事業所に勤めるすべての労働者が一斉に休業しなければなりませんでしたが、特例措置によって以下のような状況でも活用できるようになりました。
- 営業時間短縮によりシフト減した労働者の短時間休業
- 業績の落ち込んだ一部門の短時間休業、製造ラインごとの短時間休業
- 常時配置が必要な労働者以外の労働者の短時間休業
つまり、シフト制の採用している職場、部門・部署で働き方が異なる職場、宿泊業など常時配置が必要な職場などで、雇用調整助成金の受給が認められます。
短時間休業とは、1日の所定労働時間のうち、例えば20~23時までの間休業している状況を言います。
具体的なケースとしては、各都道府県知事からの「20時までの営業時間短縮要請」に協力して、閉店時間を普段よりも早め、スタッフが所定労働時間の一部につき休業した場合などが該当します。
参考:厚生労働省「新型コロナウイルスの影響を受ける事業主の方へ」
▲複数の職場でパートを掛け持ちしているスタッフがいる場合
自社以外の会社・職場で働いているアルバイト・パートスタッフがいる場合、担当者は助成金内容の重複が気になると思います。
結論から言うと、雇用調整助成金の受給は事務所単位での判断・申請となるため、1社だけに絞る必要はありません。
よって、自社以外の会社で雇用調整助成金の受給手続きが進められているかどうかにかかわらず、自社でも手続きを進めて問題ありません。
シフトカットを検討・実施している場合は注意が必要
雇用調整助成金の受給を想定して、パート・アルバイトスタッフのシフトカットを検討している場合は、休業手当を支給することが前提条件という点に注意しましょう。
基本的に、シフトカットをする理由の多くは「会社都合」と判断されてしまうため、自粛要請・客足減といった理由でシフトを減らすなら、スタッフに事情を説明した上で休業手当の支給が必要です。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
アルバイトの雇用調整助成金、申請方法・申請期限・計算方法は?
実際に雇用調整助成金を申請する場合、申請方法や申請期限・具体的な計算方法はどのようになっているのでしょうか。
以下に、申請を進めるにあたり、知っておくべき情報をまとめました。
申請方法について
雇用調整助成金の申請方式には以下の3つがあり、事業主側で申請を行います。
- 窓口持参(ハローワーク)
- 郵送
申請に必要な書類の様式は、事業主の条件によって異なるため、厚生労働省の「申請様式ダウンロードページ」で自社の条件を入力して、合致する様式を選びましょう。
郵送を選ぶ場合は、特定記録などきちんと送付したことが追跡できるような方法で行い、控えが欲しい場合は事前に所轄のハローワークに相談して、流れを確認しましょう。
参考:厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク「支給申請の手続き|雇用調整助成金ガイドブック」
申請期限について
雇用調整助成金の申請期限を知るためには、判定基礎期間について理解する必要があります。
判定基礎期間とは「申請する際の賃金締切期間」のことで、原則として対象期間内の実績を1ヶ月単位で判定し、それに基づいて支給がなされます。
判定基礎期間は、原則として「毎月の賃金締切日の翌日から、その次の締切日までの期間」となり、締切日が特定されない場合などは暦月で考えます。
仮に、賃金の締切日が毎月の末日だった場合は、例えば8月1日~8月31日までが判定基礎期間となります。
また、新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例措置を受ける場合は、以下の2種類の判定基礎期間が対象です。
・判定基礎期間の初日が令和4年11月まで
出典:厚生労働省「雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)」
雇用調整助成金の計算方法は?
新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例下において、雇用調整助成金を計算する際の公式は、以下の通りです。
(平均賃金額× 休業手当等の支払率)× 下表の助成率
今回は、原則的な措置を例として、アルバイト・パートスタッフの雇用調整助成金について計算してみましょう。
仮に、判定基礎期間が6月スタート・休業手当支払率100%・スタッフの解雇がない場合で、各月で支払った賃金が以下の通りだったとします。
6月の賃金 80,000円(労働日数12日)
7月の賃金 100,000円(労働日数14日)
8月の賃金 90,000円(労働日数10日)
上記の例における、平均賃金と最低保障額をそれぞれ計算してみましょう。
<平均賃金>
80,000+100,000+90,000=270,000円
270,000÷(30+31+31)日≒2,934円78銭
<最低保障>
80,000+100,000+90,000=270,000円
270,000÷(12+14+10)×0.6=4,500円
最低保障額の方が高いので、最低保障額を採用した場合、原則的な措置での計算額は、
4,500円×100%×9/10=4,050円となるので、
1日あたりの雇用調整助成金は4,050円という結果が出ます。
なお、今回の計算例はあくまでも基本的なもので、地域特例や業況特例など各種条件により計算内容は異なります。
詳細に関しては、ハローワーク等に問い合わせながら進めていくことをおすすめします。
おわりに
雇用調整助成金は、比較的手続きが難しい助成金の一つとされてきましたが、新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例によって、手続きが一部簡略化されています。
パート・アルバイトスタッフの雇用を守るべく休業手当を支給した企業であれば、その額に応じて助成金が受けられますから、積極的に制度を活用しましょう。