優秀な派遣バイトスタッフに出会うと、企業側としては「ウチの会社で正式に働いてもらえないか」と声をかけたくなるでしょう。
このような行為は、いわゆる「引き抜き」と呼ばれるもので人事担当者が派遣バイトを引き抜きたい場合、派遣会社やスタッフとの間に起こりうる諸々の問題を理解した上で判断しなければなりません。
この記事では、派遣バイトの引き抜きについて、違法性・手数料・直接雇用の観点から注意点を解説します。
派遣バイトの引き抜きに対する⼀般的な考え⽅・違法性について
「引き抜き」という単語は、多少のいかがわしさを感じさせるものですが、実際のところ法に触れるおそれのある行為なのでしょうか。
まずは、派遣バイトの引き抜きに対する一般的な考え方について、法律面での判断も含めご紹介します。
派遣期間中なのか、契約満了後なのかによって考え⽅は⼤きく異なる
企業が「派遣バイトを引き抜きたい」と考えるタイミングは、大きく分けて以下の2つです。
- 派遣期間中
- 契約満了後
詳細は詳しく後述しますが、いずれの場合に引き抜きを行ったとしても、引き抜きという行為そのものは、法律上違法ではありません。ただ、無秩序に引き抜きができるわけではなく、派遣会社との間でルールを守らなければなりません。
実力を判断して引き抜きを検討するのは派遣期間中、実際に引き抜きの手続きを進めるのは契約満了後になると思いますが、特に優秀な人材はすぐにでもゲットしたいと考えるかもしれません。
そこで、派遣期間中・契約満了後で引き抜きのルールがどう違うのか、それぞれのケースで解説します。
派遣期間中の引き抜き
派遣期間中、派遣バイトスタッフは派遣会社と雇用契約を結んでいる立場です。そのため、派遣期間中に引き抜きを行うと「派遣会社との雇用契約を破棄させる行為」とみなされるおそれがあります。
派遣会社によっては就業規則に競業避止義務を設けているところもあり、戦力喪失防止の観点から、引き抜きに消極的な姿勢を示している派遣会社は少なくないものと推察されます。
その上さらに「派遣期間中の引き抜き」を無理やり行おうとすると、派遣会社側からのクレームにつながることは容易に想像できるでしょう。
とはいえ、派遣期間中の引き抜きがOKなのかNGなのかについては、契約内容や派遣会社の方針によって変わってきます。派遣期間中に引き抜きたい派遣バイトスタッフがいる場合は、事前に契約内容・派遣会社の立場を確認してから判断すべきです。
契約満了後の引き抜き
派遣期間中の引き抜きがリスキーである一方で、派遣期間終了後にお互いの同意があれば派遣バイトを自社スタッフにできる「紹介予定派遣」というパターンもあり、契約満了後の直接雇用は必ずしもNGとは言い切れません。
派遣会社との契約が満了しているスタッフであれば、所定の手続きを踏むことで、派遣会社の承諾のもと引き抜きを行うことができます。
ちなみに、紹介予定派遣の場合、一定の手数料率を採用予定者の予定年収に乗じて手数料が計算されます。手数料率は概ね10~20%程度といったところですが、紹介予定派遣のアルバイトスタッフを自社で採用する予定なら、その点に注意して計画を立てましょう。
人材派遣についてもっと詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
法律上、派遣バイトの引き抜きは違法ではないが……
派遣労働法第33条では、派遣会社が雇用しているスタッフ(派遣バイト等)について「雇用関係の終了後に派遣先の会社に雇用されることを禁じてはならない」としており、すべての労働者につき職業選択の自由を保障しています。
また、法律上、契約満了後の手数料支払いは義務ではありません。よって、法律をベースに考えるなら、派遣バイトの引き抜きは違法でないことになります。
しかし、派遣会社によって取り決めは異なりますし、契約内容によっては手数料等の請求が発生するため、法律だけを盾に派遣会社と交渉するのは、あまり良い選択肢とは言えません。
どうしても引き抜きたいスタッフがいるなら、まずは派遣会社にきちんと話を通すのが筋です。手数料の支払いを避けたいからといって、該当スタッフとだけ話を進めてしまうと、後々トラブルに発展するおそれがありますから注意しましょう。
派遣型の短期アルバイト・過去に勤務した派遣アルバイトの直接雇用切り替えについて
実際に派遣バイトスタッフを引き抜いて、自社で直接雇用したいと考えた場合、どのような問題が発生する可能性があるのでしょうか。
以下に、優秀な人材確保のハードルが低い直接雇用の方法も含め、人事担当者が注意したいポイントをいくつかご紹介します。
派遣会社への⼿数料の⽀払い
紹介予定派遣でない場合でも、派遣型の短期アルバイト・過去に勤務した派遣アルバイトの引き抜きを行おうと考えた際、例外なく手数料は発生するのでしょうか。
結論から言うと、派遣バイトスタッフの立場によって、判断は変わってきます。派遣元企業が継続的に雇用している人材を、短期的に派遣している場合は、派遣会社に対して連絡を入れる必要があります。スタッフ個人とやり取りしても、良識ある人材なら間違いなく「一度派遣会社に相談する」旨を伝えるはずだからです。
そして、派遣会社が人材を「紹介」する形で話がまとまったなら、紹介手数料が発生する可能性が高いでしょう。
しかし、1日単位で働いている人材で、今後同じ派遣会社を利用しないことがハッキリしている場合であれば、実質的に派遣会社と雇用契約は結ばれていないので、理論上は本人とやり取りしても差し支えはありません。
派遣契約が解除された後の就労については、法律上の制約はないからです。ただ、派遣会社によっては同業種等への転職を禁じている可能性もあるため、不安であれば雇用する予定のスタッフが在籍していた派遣会社に確認を取っておきましょう。
まとめると、派遣型の短期アルバイト・過去に勤務した派遣アルバイトの引き抜きを行う場合、
- 直接雇用予定のスタッフが、現在も派遣会社と雇用契約を結んでいるかどうか
- 直接雇用予定のスタッフが、派遣会社を退職した後も効果が継続する何らかの契約を結んでいるかどうか
上記の点について確認しておくことをおすすめします。
派遣会社を通さず派遣バイトの引き抜きを行った場合のリスク
もし、派遣会社に連絡を入れずに派遣バイトの引き抜きを行った場合、どのようなリスクが考えられるのでしょうか。
企業担当者としては、少なくとも以下のリスクは頭に入れておく必要があります。
- 派遣会社が元スタッフの動向を不審に思い、競業避止義務違反を理由に損害賠償を請求する
- 「派遣会社より待遇が悪い」と考えたスタッフが、過去に所属していた派遣会社に戻ろうとして、派遣会社の担当者に引き抜きの実態について密告する
- 派遣会社との関係が悪化して、新しい人材の派遣を止められてしまう
上記のうち、損害賠償の請求は事前にルールを決めていない場合は難しい、という意見もありますが、多くの派遣会社が引き抜きを想定して派遣先企業・派遣バイトスタッフと契約を結んでいるものと考えておいた方が賢明です。
また、密告のリスクは、後ろめたいやり取りをしている以上は絶対に避けられないものですから、どんなに優秀なスタッフであっても信用し過ぎないよう注意しましょう。
派遣会社の許可を得ない引き抜きがバレてしまい、自社と派遣会社の間でトラブルが起これば、当然ながら今後の取引が円滑に進む可能性は低くなります。くれぐれも、軽率な判断は控えましょう。
派遣会社を通さず派遣バイトの引き抜きを行った場合のリスク
派遣バイトの引き抜きは、自社のニーズを満たす人材を確保できる可能性が高い反面、手数料の支払い・派遣会社との関係悪化などのリスクもあります。
しかし、派遣と異なる人材確保の方法を選べば、派遣バイトよりも優秀な人材の引き抜きがしやすくなります。
具体的な方法としては、
- 採用企業が1日単位で直接雇用する「日々紹介」
- アプリ等の媒体を使って、スキマ時間で働く人材を直接雇用する「単発バイトマッチング」
上記のような方法があります。
しかし、これらの方法に関しては、短期間で直接雇用する際に生じるデメリットも理解した上で利用しないと、労務事務等の面で担当者の負荷を増やすリスクがあります。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
まとめ
自社にとって貴重な人材の確保は、あらゆる方法を駆使して行われるべきですが、派遣バイトスタッフを引き抜こうと考えている場合は注意が必要です。
自社とスタッフだけの問題ではなく、派遣会社の意向もからんできますから、慎重に話を進めましょう。