平成19~20年頃に起こった不適正な日雇派遣、いわゆる「データ装備費問題」が社会問題となったことを受けて、平成24年の労働者派遣法改正にともない日雇派遣は原則禁止となりました。
ただし、日雇派遣は「原則」禁止なのであって、一部例外となる業務・対象者も存在します。この記事では、企業の人事担当者向けに、日雇派遣の例外業務・対象者の要件をまとめました。
日雇派遣と混同されることの多い「日々紹介」に関しては、こちらの記事で解説しております。
また、自社で一日単位のアルバイト雇用を検討されている方には、こちらの記事も参考にしてみてください。
日雇派遣に「該当する/しない」を事例を交えて紹介
そもそも、日雇派遣が禁止となったのは、一部の派遣業者の不適正な雇用管理が原因でした。
勤務体系の不明確さ・労働者がワーキングプアに陥るいびつな福利厚生費の徴収など、派遣労働者を保護することが難しいという理由で、日雇派遣が原則禁止となったのです。
どのような派遣内容が禁止となるのか・例外となるのかについては、分かりにくい部分が多いため、以下に原則を踏まえつつ事例を紹介します。
原則:派遣会社との労働契約が30日以内の日雇派遣は禁止
労働者派遣法第35条の4において、日雇労働者は「日々又は三十日以内の期間を定めて雇用する労働者」と定義されています。
また、日雇労働者について労働派遣を行ってはならないとも明記されています。よって、原則として「派遣会社との労働契約が30日以内」の日雇派遣は禁止であると解釈できます。
原則を理解したところで、この原則を基準にして考えたとき、OKかNGか判断しにくい事例について以下にご紹介します。
事例1:31日以上の契約
原則に基づいて判断するなら、派遣会社との労働契約が31日以上であれば、労働者派遣法における日雇派遣には該当しません。
よって、労働契約の日数が31日以上なら、理論上はその契約は有効ということになります。
事例2:再契約
過去の契約が終了してから、新たにスタッフが再契約して30日以下の契約で働いた場合、日数を通算できるかどうかという問題が発生します。
こちらは、あくまでも別の契約としてカウントされ、たとえ再契約でも原則に該当するため禁止と判断します。
事例3:複数社での勤務
派遣スタッフとしての勤務先は、必ずしも特定の1社だけとは限りません。雇用契約自体は31日以上だったとしても、A社・B社・C社の3社でそれぞれ働いた日数が30日以下ということも十分考えられます。
このようなケースでは、あくまでも雇用契約上の日数を優先します。よって、甲社が8日、乙社が9日、丙社が14日という内訳だったとしても、契約上問題はないことになります。
事例4:超短期
社会通念上妥当と考えられる労働日数を満たさない、超短期での勤務については、日雇派遣の原則に該当するものとして禁止されます。
具体的には、概ね週20時間未満の労働は認められません。
日雇派遣の例外事由は?対象となる「業務・人」について
原則禁止となる日雇派遣ですが、一部の業務・人に関しては例外となります。以下に、業務・人それぞれのケースに分けて、例外となる事由についてご紹介します。
日雇派遣の例外となる「業務」について
- ソフトウェア開発
- 機械設計
- 事務用機器操作
- 通訳、翻訳、速記
- 秘書
- ファイリング
- 調査・財務処理
- 取引文書作成
- デモンストレーション
- 添乗
- 受付、案内
- 研究開発
- 事業の実施体制の企画、立案
- 書籍等の制作、編集
- 広告デザイン
- OAインストラクション
- セールスエンジニアの営業、金融商品の営業
上記の業務に関しては、専門性の高さからニーズが途切れないものと想定された結果、例外事由になっているものと推察されます。
ただ、これらの業務は必ずしも「1~30日以内で完結する業務」だけを依頼する想定で区分されたものとは考えにくいため、実際に日雇派遣を検討する場合は、自社の事情に即した計画を立てる必要があるでしょう。
日雇派遣の例外となる「人」について
- 60歳以上の人
- 雇用保険の適用を受けない学生(いわゆる「昼間学生」)
- 副業として従事する人(生業収入が500万円以上の人に限る)
- 主たる生計者以外の人(世帯収入が500万円以上の人に限る)
上記の方々について、もう少し詳しく見ていきましょう。
▲60歳以上の人
満60歳の人は、日雇派遣の例外に属します。あくまでも60歳の誕生日を迎えた人から対象となるため、歳の数え方には注意が必要です。
▲昼間学生
大学生など、昼間は学校に通って、夜・休みの日にアルバイトする人のことを、昼間学生と呼びます。
昼間学生は学業が優先するため、日雇派遣労働を行ったとしても、労働が生活の主な時間を占めるわけではないことから、日雇派遣が認められます。
一方で、同じ学生でも以下のようなケースは該当しません。
- 大学における夜間学部の学生
- 通信教育受講者
- 高等学校の夜間
- 定時制の学生
- 休学中の人
- 内定先で働く人
注意が必要なのは、昼間学生として就職活動を行い、内定先の企業で働く場合です。この時、当人はすでに雇用保険の対象となるため、日雇派遣は認められません。
▲生業収入が500万円以上で、副業として従事する人
少し分かりにくい表現ですが、生業収入とは、複数の収入源の中でもっとも多くの収入を得ているものを言います。
生業で500万円以上の収入を得ている人は、相応に収入が安定しているものと考えられるため、日雇派遣を副業にして働くことが認められます。
▲世帯年収が500万円以上で、主たる生計者以外の人
主たる生計者とは、世帯年収の50%以上の収入を担う人が該当します。
夫の世帯年収が550万円、妻が専業主婦の家庭であれば、妻が日雇派遣で働くことは認められます。
企業が日雇派遣労働者を雇う場合に確認すべきこと
実際に日雇派遣労働者を雇う場合、派遣先企業として行うべき措置・確認すべきことがいくつか存在します。
以下に、主な措置・確認事項をご紹介します。(参考:厚生労働省「派遣労働者の労働条件・安全衛生確保のために」)
①雇用・就業条件について
労働者を雇う前に確認しておきたいのが、就業条件や募集背景についてです。
依頼するに至った事情を派遣会社側に説明した上で、可能な限り雇用期間を長く設定するようにします。
派遣スタッフは時給制の給与が一般的なので、勤務時間・残業時間・休日出勤の有無など、収入に直結する部分の条件はきちんとすり合わせておく必要があります。
また、社内で派遣労働者がどのような仕事をするのか、関係法令も含めて社内に周知しておくことも忘れてはいけません。
万一、派遣先都合で契約満了前に派遣契約を解除するようなことがあれば、新たな就業先の確保に努めなければなりません。
派遣スタッフに働く前から苦労をかけないよう、細かいところまで事前に派遣会社と打ち合わせておくべきです。
②保険・教育訓練について
派遣スタッフの各種保険の手続きは、派遣会社側が行います。
そして、派遣先企業に対し、労働・社会保険・日雇いに関する保険適用状況について通知します。
このとき、自社側で手続きに関するチェックを入れ、もし各種保険が未加入になっている場合、理由が不適切なものでないか確認しておく必要があります。
問題があると判断したら、事情を聞いて手続きを求めなければなりません。また、実際にスタッフが就業する前に、業務スキルを身に付けるための教育訓練なども想定しておかなければなりません。
スキルのミスマッチがないように、実務面でスタッフに要求する能力も明確にしておきましょう。
細かい話に感じられるかもしれませんが、制服の着用は必須かどうか・休憩室などスタッフが利用できる施設はどこかなど、オフィスの情報も共有しておきたいところです。
早い段階で戦力になってもらえるよう、協力体制を作っておくことも大切です。
③業務と人について
先にお伝えした通り、日雇派遣が認められる条件は決まっているため、依頼しようと思っている業務・雇用を検討している人が、日雇派遣できる人材かどうかを確認しなければなりません。
業務上、複数の仕事を依頼する可能性がある場合、特に注意して条件を確認しましょう。
また、日雇派遣禁止の例外となる人たちについては、本当に対象者かどうか確認書類を回収する必要があります。具体的には、以下の書類を確認・回収します。
その他、確認に必要と思われる書類があれば、適宜確認するようフローを構築しておきましょう。
ちなみに、日雇派遣バイトの代替策として上で紹介した「日々紹介」のほかに「ギグワーカー」を活用を検討するのもおすすめです。こちらの記事を参考にしてみてください。
まとめ
日雇派遣禁止のルールは、原則の正しい解釈・例外となるケースを押さえておけば、決して難しいものではありません。
しかし、派遣会社との連携が取れていないと、思ってもみなかった問題が生じるおそれもありますから、慎重に対応しましょう。