アルバイトスタッフが、業務中または通勤時にケガをしたり病気になり働けなくなった際の補償となるのが休業補償です。
新型コロナウイルスの影響で、アルバイトスタッフなどのシフト勤務者が、休業支援金や休業手当の給付に関する情報を得る機会が増え、休業補償と混同するケースも少なくありません。
人事・労務担当者としてもそれぞれの違いを把握した上で、労災時の適切な対応方法を知っておく必要があります。
実際に支給する状況が生じた場合を想定して、休業補償の支給要件・金額についても、担当者は理解を深めておきたいところです。
そこで、この記事では、アルバイトスタッフの休業補償に関する基礎知識について、支給に携わる担当者が知っておくべきことをご紹介します。
アルバイトでも労災保険の休業補償は受給可!休業補償の基礎知識を知ろう
休業補償は、労働者の雇用形態によらず支給されるものですから、アルバイトも休業補償を受けることができます。
以下に、休業補償に関する基本的な事項をご紹介します。
休業補償とは?
休業補償は、業務中または通勤時にケガをしたり病気になったりして、その療養のため仕事ができなくなった従業員に対して支払われる補償のことを言います。
補償の対象は、正社員・契約社員・パートスタッフ・アルバイトスタッフを問わず、すべての労働者が補償対象となります。
万一、労働保険に加入していない企業で働いている場合、従業員は労働基準監督署に労災申請を行うことで、労災保険給付が受けられます。
ただし、派遣社員の場合、派遣先の企業による適用となる点に注意が必要です。
休業手当との違いについて
新型コロナウイルスの影響で、シフトに入れず、休業手当の受給の有無が話題となっていますが、休業手当は休業補償と比較した際にどのような違いがあるのでしょうか。
以下に、休業補償・休業手当それぞれの違いについて、かんたんにまとめました。
どちらの制度にも「休業」という単語が含まれているため、その点がスムーズな理解を妨げている部分は否めませんが、ご覧の通りそれぞれの制度は異なるものです。
労働者が業務中に負傷したり病気になったりした場合、労災保険によって支給されるのが休業補償であり、従業員が働けるのに会社都合で休ませることが休業手当となります。
休業補償の支給要件や支給金額の計算方法
従業員の負傷・病気の原因が、仕事によるもの(業務災害)もしくは通勤によるもの(通勤災害)のいずれかの場合に、休業補償が受けられます。
具体的な支給要件は、以下の3点があげられます。
- 業務上の理由または通勤上の怪我、疾病の療養中である
- 現在療養中のため、オフィス等で労働することができない状態である
- 療養中、会社から労働による賃金が払われていない
支給要件において注意したいのが、テレワークに関することです。
業務上の理由から怪我をして通勤できない労働者が、自宅で仕事をして賃金をもらっているような場合は、休業補償の対象外となります。
休業補償の支給金額
休業補償の支給金額を計算するにあたっては、給付基礎日額について知る必要があります。
給付基礎日額とは、原則として労働基準法の平均賃金に相当する額のことで、以下の2種類の計算方法があります。
- 通常の3ケ月間の暦日数による計算
- 日給、時給、出来高給の場合における最低保障額の計算
給付基礎日額が計算できたら、以下の公式によって金額を計算します。【給付基礎日額の60%×休業日数=休業補償の給付額】
【給付基礎日額の20%×休業日数=休業特別支給金の給付額】
上記の通り、休業補償が支給される際には、休業特別支給金も合わせて支給されます。
注意点として、給付基礎日額の計算方法は、正社員とパート・アルバイトスタッフで異なる場合があります。
以下に、それぞれのケースにおいて、支給金額の計算方法を見ていきましょう。
■通常の3ヶ月間の暦日数による計算
通常の3ヶ月間の暦日数による計算は、正社員のように、月々の勤務日と給与がある程度決まっている場合を想定すると分かりやすいでしょう。
一例として、正社員が勤務中に交通事故に遭ったケースで考えてみましょう。
これらの情報から、給付基礎日額を計算する場合、以下のようになります。
【654,000円÷92日≒7,109円(小数点以下切り上げ)】
給付基礎日額の金額が確定したら、休業補償・休業特別支給金について計算し、それぞれの合計を足します。
7,109円×0.6≒4,265円(小数点以下切り捨て)7,109円×0.2=1,421円(小数点以下切り捨て)
4,265円+1,421円=5,686円
上記の計算の結果、A氏の休業補償支給額は、5,686円となります。
参考:厚生労働省「休業(補償)等給付の計算方法を教えてください 」
■日給、時給、出来高給の場合における最低保障額の計算
パート・アルバイトスタッフの場合、入ったシフト数や勤務時の時給によって、計算に用いる数値が変わってきます。
正社員A氏の例を一部変えて、アルバイトスタッフのB氏が事故に遭った場合を想定してみましょう。
これらの情報から、給付基礎日額を計算する場合、以下のようになります。
- 【125,000円÷92日≒1,359円(小数点以下切り上げ)】
ただし、アルバイトスタッフは時給制のため「賃金受給額を労働日数で除した金額の60%」が最低保証額となります。 - 【125,000円÷25日=5,000円】
①と②のうち、いずれか高い方が採用されるので、B氏の給付基礎日額は5,000円となります。
休業補償の支給期間と注意点
休業補償の期間は無制限ではなく、以下の2つのうち、早い日が補償期間です。
- 休業4日目から怪我、疾病が完治した日(休業開始から3日間は待期期間)
- 療養を開始してから1年6ヶ月が経過した日
1年6ヶ月が経過しても、以前の状態にまで回復していない場合は、傷病年金へと切り替わります。
参考:厚生労働省「休業補償はいつまでもらえるのでしょうか。|労働基準行政全般に関するQ&A
また、休業補償の支給金額は、労働者の就労時間によって、以下の2つに分かれます。
- 全部労働不能:所定労働時間の「すべての業務に就労できない」場合、一日あたり給付基礎日額の60%+20%が支払われる
- 一部労働不能:所定労働時間の「一部分に就労できない」場合、給付基礎日額から「労働した部分に支払われる賃金額を引いた金額」の60%+20%が支払われる
全部労働不能は分かりやすいですが、一部労働不能に関しては、例えば病院等への通院で就労時間が少なくなった場合が該当します。
支払要件の確認・金額の計算にあたっては、上記の点にも注意しましょう。
アルバイトスタッフが怪我をした際の、雇用者側の適切な対応方法について
どんな仕事においても、スタッフの安全第一で仕事を管理することが何よりです。
しかし、不注意やミスから思いもよらぬ怪我をしてしまった場合、雇用者はスタッフの健康を第一に考えて行動しなければなりません。
以下に、万一の際に雇用者が取るべき対応についてご紹介します。
被災者の救護/迅速な現場対応
事故が発生したら、被災したスタッフの救護にあたります。
最寄りの労災指定病院に搬送し、速やかに治療を受けられるよう動きましょう。
被災者の家族への連絡はもちろんのこと、深刻な状況であれば警察・労働基準監督署への連絡も行います。
事情聴取に向けた対応
災害現場の保全につとめ、警察・労働基準監督署の関係者が行う現場検証・事情聴取に対応します。
このとき、いつ・どこで・誰が災害に遭遇したのか詳細をメモしておくと、後々の場面で役に立つでしょう。
労働基準監督署への届出/請求
自社で労災事故が発生した場合、労働基準監督署に提出しなければならない書類がいくつか存在しますので、それらを準備して届出・請求を行います。
休業補償の請求に関することもその一つで、業務上の災害・通勤時の災害それぞれに必要な書類は以下の通りです。
事情聴取に向けた対応
同じような事故が起こらないよう、再発防止策を徹底します。
原因が明確であれば、作業工程を変更するなどの対応はもちろんのこと、ヒヤリハット事例を集めるなどして問題を未然に解決するよう動くことも大切です。
まとめ
休業補償は、休業手当と混同しやすいですが、それぞれはまったく別のものです。
労災事故に遭遇した際、雇用形態にかかわらず被災者に支給されるべきものですから、人事・労務に携わるスタッフは、正しい知識の下で手続きを怠らないよう注意しましょう。