入れ替わりが多いアルバイトスタッフのマイナンバー管理については、自社でどのように管理するのがベストなのか、明確な答えがないまま管理を行っている企業も少なくありません。
また、新しく採用されたスタッフの側でも「マイナンバーを企業に教えて悪用されないだろうか」という不安を持っている人は、一定数存在しているものと推察されます。
採用後にアルバイトスタッフからなかなかマイナンバーを提出してもらえないケースも考えられることから、企業としてはマイナンバー管理に対するスタンスを明確にしておく必要があります。
この記事では、アルバイトスタッフのマイナンバー管理について、マイナンバーの提出が必要な手続き・収集方法・管理方法等を解説します。
アルバイトのマイナンバー管理は本当に必要?
アルバイト側の立場から考えた際、マイナンバーを企業に伝えなくても罰則は適用されませんが、企業の立場から見ればそうはいきません。
実際、採用後の各種手続きでスタッフのマイナンバーを確認する必要が出てくるため、働くスタッフの人数や立場を問わず、アルバイトのマイナンバー管理は必要と言えるでしょう。
マイナンバーの提出が必要となる⼿続き
マイナンバーは、社会保障・税金・災害対策の3分野につき、行政機関に提供する必要があるものです。実務上、具体的な手続きとしては、以下のようなものがあげられます。
○労災保険
労災保険は、労働者であれば基本的に雇用形態を問わず加入しなければならない保険なので、アルバイトスタッフも例外なく加入します。
ただ、マイナンバーの記載欄が設けられているのは「労災年金を請求する人・もしくは受給する人」向けの書類であり、労災年金の様式以外でマイナンバーの記載は求められていません。
参考:厚生労働省 都道府県労働局 労働基準監督署「マイナンバー制度導入による労災年金の請求書などの取扱いについて、注意点をご確認ください」
○健康保険
週の所定労働時間や月額賃金によっては、アルバイトスタッフも健康保険に加入できるため、加入手続きの際にマイナンバーが必要になります。
対象となるスタッフは限定的ですが、長期的な戦力として自社・自店で確保しておきたいスタッフがいる場合は、将来的に手続きが必要になるでしょう。
○雇用保険
雇用保険の届出時は、雇用保険被保険者資格取得届にマイナンバーの記載が必要です。
他にも複数の書類でマイナンバーの記載を求められますから、31日以上の雇用見込み・1週間の所定労働時間が20時間以上となるスタッフを雇用する際は、雇用保険加入を理由にマイナンバーを確認することができます。
参考:厚⽣労働省・都道府県労働局・ハローワーク「雇用保険の届出にマイナンバーの記載が必要です。」
○年末調整時の労務処理
扶養控除等申告書など、年末調整を進めるにあたり必要な書類をスタッフに提出してもらう場合、従業員本人や、控除対象となる配偶者・親族等のマイナンバーが必要です。
また、税務署に提出する源泉徴収票にはマイナンバーの記載が必要ですが、本人交付用には記載不要です。
参考:国税庁「Q1-4 平成28年分の扶養控除等申告書に従業員等のマイナンバー(個人番号)が記載されていれば、平成29年分以降の扶養控除等申告書には、記載内容に変更がない限りマイナンバー(個人番号)の記載を省略してもよいですか。|源泉所得税関係に関するFAQ」
単発バイトの場合はどうなる?
健康保険・雇用保険の加入条件を満たさない単発バイトの場合でも、支払った給与から源泉徴収した税金を納税するにあたり、マイナンバーの情報を必要とします。
アルバイトに対するマイナンバーの収集⽅法と管理⽅法
マイナンバーは、個人を特定する重要な情報のため、適切な方法で収集・管理することが求められます。
違反した際の罰則は、重いもので懲役4年以下もしくは200万円以下の罰金(特定個人情報ファイル(その全部又は一部を複製し、又は加工した特定個人情報ファイルを含む。)を提供した場合)となっているため、十分注意して業務を進めましょう。
参考:「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律 第48条」
マイナンバーを集める際の⼿順
アルバイトスタッフのマイナンバーは、行政機関に照会して確認する情報ではないため、新しく入社するスタッフから個別に教えてもらう必要があります。
具体的な手順としては、概ね以下のような流れでマイナンバーを集めます。
①利用目的を明示する
スタッフからマイナンバーを教えてもらう場合、利用目的を明示しなければなりません。
明示の方法は口頭・文書のいずれでも構いませんから、対象のスタッフに「雇用保険の手続きで必要だから教えて欲しい」といったように、あらかじめ目的を伝えてから収集します。
②本人確認・番号確認を行う
マイナンバーを取得する際は、なりすましなど万一のことを考えて、番号と身元(本人)の確認が必要です。
個人番号通知カードで番号を、運転免許証やパスポート等で身元を確認する形になりますが、マイナンバーカードがある場合はそれ1枚で問題ありません。
○利用目的が果たされたら適切な方法で廃棄する
一度取得したマイナンバーは、その時点で半永久的に自社が管理するわけではなく、利用目的が果たされた段階で廃棄する点に注意が必要です。
紙媒体ならシュレッダーや焼却処理、データで保存している場合は復元不可能なデータ消去を行い、外部への情報漏洩を防ぎます。
参考:個人情報保護委員会「保管制限と廃棄|特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」
アルバイトがマイナンバーを提出しない場合の対応⽅法
アルバイトスタッフの中には、マイナンバーの取り扱いに関して、国や企業に不信感を抱いている人も少なくなく、マイナンバーの提出を拒む人もいます。
ただ、だからといってすぐさま採用を見送る必要はなく、提出を拒まれた場合の対処法を押さえておけば、落ち着いて対処できるでしょう。
○マイナンバーが必要な理由をしっかり説明する
マイナンバーを収集する企業は、大前提として「なぜマイナンバーが必要なのか」をスタッフに説明してからでなければ、収集ができません。
どんな目的のために使用するのか・それ以外の目的で使用されることはないのかについて、しっかり説明を試みることで、スタッフの不安を軽減できます。
参考:「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律 (第14条)」
○提出できない理由を確認後、必要書類を提出してもらう
アルバイトスタッフに対して、丁寧にマイナンバー収集の理由を説明しても納得してもらえなかった場合は、拒否された際のやり取りを記録に残しましょう。
一方的にやり取りを記録するだけでなく、アルバイトスタッフの意志でマイナンバー提出を拒否したことを証明するため、拒否証明書に署名・捺印してもらうことも企業のリスクを減らします。
○空欄のまま提出することは違法ではない
各種マイナンバーへの対応は、企業にとっては義務であっても、個人であるアルバイトスタッフには罰則規定はありません。
よって、マイナンバー提出を拒否している人・マイナンバーが付番されていない人の番号が分からず、記載が求められる書類のマイナンバー欄を空欄のまま提出したとしても、それ自体は違法ではありません。
アルバイトのマイナンバー管理⽅法
マイナンバーを管理するためには、不正な漏洩・盗難等を防止するために、適切な管理体制を構築する必要があります。
取り扱う情報量に応じて、どのような方法がベストかは変わってきますが、概ね以下のような方法があげられます。
○紙ベースでの管理
従業員数がもともと少ない企業・経理業務は身内で行っている企業等の場合、紙ベースでマイナンバーを管理しつつ頑丈な金庫で保管しておく方法が考えられます。
データをデジタル化せずにリスト形式で保管することにより、少なくともサイバー攻撃に至るリスクは避けることができますし、データだけがコピーされて持ち出される可能性も低くなります。
○Excelによる管理
紙ベースでの保管に比べると、Excelデータでのマイナンバー管理は低コストでの管理が可能ですが、その分だけ情報漏洩のリスクも高くなります。
最低限、マイナンバーのExcelファイルにパスワードをかけるのはもちろんのこと、保存しているPCにもパスワードをかけて、可能であればPCはオフラインでの利用を心掛けたいところです。もちろん、盗難防止のため、鍵のかかるキャビネット等への保管も必要です。
○マイナンバー管理システム
アナログな方法以外でマイナンバー管理を検討しているなら、マイナンバー管理ができるシステム・サービスの利用もおすすめです。
サービスによっては、使い切りのワンタイムパスワードを発行して取引先のマイナンバーを取得したり、他ソフトと連動して法定調書への印字ができたりするものもありますから、上手く活用することで作業効率化が期待できます。
まとめ
提供を拒否されるリスクはあるものの、アルバイトスタッフからマイナンバーを収集して、それを管理することは、企業にとって避けては通れない問題です。
得られたマイナンバーは適切に管理しなければなりませんが、その方法は一律ではありませんから、自社の企業規模に応じた対策を講じることが大切です。