「同一労働同一賃金」は、同じ職場・職務での正規・非正規雇用における従業員格差を改善することを目的とし、昨年4月より大手企業に対して施行されました。
2021年の4月からは「中小企業にも拡大」されるため、企業規模問わずに「同一労働同一賃金」を実施していく必要があるのです。
※2022年10月5日追記
2021年4月1日からパートタイム・有期雇用労働法の適用が中小企業にも拡大されました。(参考:政府広報オンライン「2021年4月1日からパートタイム・有期雇用労働法が中小企業も適用に。」
本記事では、これから同一労働同一賃金(有期雇用労働法)を実施していく方々に向けて、対策ポイントと他企業における実例をまとめてご紹介します。
企業側が対策すべきことと他社の実施例を参考に、自社の施策を検討していきましょう。
【この記事を読んでわかること】
・同一労働同一賃金の概要
・対策すべきポイント
・他企業の実例
同一労働同一賃金とは?
「同一労働同一賃金」とは、労働者の雇用形態にかかわらず、同じ仕事(職務)に対して同一の賃金(待遇)を用意することで、正規・非正規雇用者における不合理な待遇格差を是正することを目的とした制度です。
法改正により「同一労働同一賃金」が導入された理由には、先行して欧州各国が行った「非正規・正規雇用の待遇・経済的格差是正」を日本国においても取り入れることで、欧州の就労環境と同じ水準を目指すといった背景があります。
日本国の現状においては、雇用形態別の待遇格差が先進国と比べて開いており、これを改善し、雇用形態にかかわらず公正な待遇を確保していくことで、政府が掲げる「働き方改革」を推進していく狙いもあるのです。
法改正のポイントと企業側が対策すべきこと
「同一労働同一賃金」の導入に伴う法改正のポイントは主に3つあります。
【法改正の3つのポイント】
参考:厚生労働省「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保 」
1.不合理な待遇差の禁止(均衡待遇)
2.差別的取り扱いの禁止(均等待遇)
3.待遇差に関する説明義務の強化
それぞれ解説していきます。
1.「不合理な待遇差の禁止(均衡待遇)」
「不合理な待遇差の禁止(均衡待遇)」は、従業員の待遇を決定する際、業務内容や職責などの職務に条件に応じた適切な待遇を用意しなくてはならないという決まりです。
雇用形態(正社員・パート)、将来性、性別等の抽象的・主観的理由で待遇に差をつけることは、不合理な待遇差として禁止されます。
企業が従業員の待遇を決める際には、「1.職務内容」「2.配置の変更」「3.その他業務上の合理的な事情」の範囲内において、適切な待遇を決定しなくてはなりません。
2.「差別的取り扱いの禁止(均等待遇)」
「差別的取り扱いの禁止(均等待遇)」は、従業員の待遇を定める際、業務内容や職責が同等の場合、均等に取り扱う必要があるという決まりです。
同等の業務を行っているにもかかわらず、雇用形態や不合理な都合によって待遇を差別することは禁止されています。
職務や責任が同じである場合は、同等の待遇を用意する必要があります。
3.「待遇差に関する説明義務の強化」
「待遇差に関する説明義務の強化」とは、従業員から待遇差について説明を求められた場合、合理的な待遇差の理由を説明する義務が生じます。
(※待遇差に関する説明資料を用意して配布する等の方法でも問題ありません。)
説明した内容を正しく理解できるように、雇用契約時の書類や賃金表等の資料を用意して説明するようにしましょう。
「待遇差」とは、給与だけではなく、福利厚生や各種手当を含みます。
例えば、「派遣社員は食堂やロッカーの利用ができない」、「通勤手当の有無・時間外/休日深夜労働の割増率が異なる」といった場合は、「不合理な待遇差・差別的取り扱いの禁止」に抵触する可能性があります。
企業側が対策すべきこと
雇用主である事業者が対応すべきことは、「均衡待遇・均等待遇・説明義務の強化」の3点について現状を確認し、法令違反があれば是正していくことです。
対策の詳細については、下記厚生労働省発表の手順書をご覧ください。
【対策の手順】
出典:厚生労働省・都道府県労働局「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」
(同法案の規定・詳細手順についても上記資料をご参照ください。)
実際の対策事例
実際に「同一労働同一賃金」に取り組んだ企業の事例をご紹介します。
1.「イトーヨーカドー(卸売・小売業)」
出典:厚生労働省 「取組事例(株式会社イトーヨーカ堂)」
イトーヨーカドーは、基本給をはじめとした賃金以外にも、教育訓練・福利厚生といった働き手の多様性に応えるためにも、「同一労働同一賃金」を実現していく必要があるとして取組をスタートしました。
【1.基本給の待遇・体系改善】
同社では以前から、パート社員にも年二回の人事評価を実施し、賃金に反映していました。
一方で、業務評価の高いパート社員には管理業務を担わせているため、キャリアアップを好まない方々にとっては適さないと判断。
上記改善のために、業務遂行能力と社員の意向によってキャリアを選び、それによって待遇を定めていく体系を整えました。
【2.手当の導入】
以前は、パート社員は役職登用が無いため、職責手当は支給されていませんでした。
取組に際して、キャリア選択に向けたステップアップ制度を導入し、パート社員の役職登用を開始し、職責手当も支給されるようになりました。
【3.正社員転換】
キャリアアップに向けた「ステップアップ制度」を導入し、パート社員の能力や姿勢に応じて3段階のランク付けを行い、リーダーに該当したパート社員には正社員・役職登用を開始した。
2.「池田泉州銀行(金融業)」
出典:厚生労働省「取組事例(株式会社池田泉州銀行)」
池田泉州銀行は、パート社員のモチベーション向上や競争力向上・定着に繋がるとして正社員との待遇差を精査し、改善を行うことにしました。
【基本給の待遇改善】
正社員の基本給を時給換算してパート社員との時給を比較した結果、パート社員の時給を40円~100円程度上げることで同水準の給与まで引き上げ、待遇差の改善や定着促進を行いました。
【福利厚生の改善】
正社員のみ支給されていた「食事補助手当」は、パート社員に対する不合理な待遇差であると考え、パート社員にも同一金額(就業1日あたり130円)の支給を行いました。
また、会員制福利厚生サービスへの加入も正社員限定の条件を撤廃し、パート社員も会社が全額費用負担の上、利用できるように改善を行っています。
3.「富士通ゼネラルエレクトロニクス(製造業
出典:厚生労働省「取組事例(株式会社富士通ゼネラルエレクトロニクス)」
富士通ゼネラルエレクトロニクスは、有期雇用労働者の定着率の課題を解決すべく取組を開始しました。
【給与・評価の改善】
これまでは正社員にのみ、「目標管理制度」が導入されており、契約社員には賞与支給がされていませんでした。
正社員と評価の仕組みは異なるが、年二回に分けて正社員と共に人事評価を行う他、三段階の等級で評価して昇給や賞与に反映するように改善しました。
【休暇に関する待遇改善】
慶弔休暇について、正社員と有期雇用労働者では日数に差があり、正社員の方が1日~2日程度長く休めるようになっていた。
配偶者出産休暇についても日数差があり、契約社員には付与されていませんでした。
上記休暇制度を改善し、有期雇用労働者も正社員と同じ日数を付与することとしました。
まとめ:「同一労働同一賃金」を遵守し、正しい労務管理を行おう
「同一労働同一賃金」は、雇用主である事業者が遵守すべき法令として施行されました。
同法令では、雇用形態にかかわらず、均等・均衡な待遇で従業員を雇用していく事が求められ、政府が掲げる働き方改革・多様化を推進する内容になっています。
一方で、働き方が多様化するということは、その分従業員の労務管理が重要なポイントになります。
弊社では、同一労働同一賃金への取り組みもスムーズに行える「matchbox」をリリースし、従業員の給与管理・勤怠管理・採用管理から、1時間単位で単日雇用まで行える仕組みを整えました。
人事・労務の業務を一元化することで業務効率を改善し、働き方改革で多様化する人材の登用や管理を円滑に行い、「同一労働同一賃金」を遵守していきましょう。