パート・アルバイトの源泉徴収を行う際は、給与から正しい所得税の控除額を確認するため、国税庁が刊行している「給与所得の源泉徴収税額表」をもとに控除額を計算します。
しかし、控除額は決して一律ではなく、従業員の条件によって金額が変わってきます。具体的には、税区分「甲・乙・丙」の3通りがあり、扶養控除の有無や雇用期間の違いによって控除額が区分されるため、計算方法が違ってきます。
正しい理解にもとづいて計算しなければ、パート・アルバイトスタッフから余計な金額を徴収してしまったり、逆に不足額が発生してしまったりするおそれがあります。
この記事では、パート・アルバイトの給与計算でまぎらわしい税区分である、甲・乙・丙の違いについて解説します。
源泉徴収税額表の税区分とは
税区分という単語を聞くと、消費税の課税・非課税を思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、当然ながら税金には数多くの種類があり、従業員の所得税もそれぞれの事情によって税区分の対象となります。
まずは、源泉徴収税額表における税区分について、かんたんにおさらいしましょう。
税区分とは
税区分とは、各種税金をそもそも支払うべきかどうか・支払うのであればいくら支払うのかを区分することです。
例えば、消費税であれば課税・非課税・不課税・免税の区分が該当し、所得税の源泉徴収なら従業員それぞれの事情に応じて税額を計算するための区分となります。
税区分を誤って計算した場合、以下のようなリスクが想定されます。
- 正しい税額を申告しなかったことで、企業が追徴課税の対象となるおそれがある
- 税額が誤っていて追加の源泉徴収が発生すると、従業員の企業に対する信頼が揺らぐ可能性がある
年末調整では、社員が支払った生命保険料の金額に応じて一定額が控除されるなど、税計算の中で還付が発生するケースは珍しくありません。
しかし、税金が足りなかったから別途徴収すると言われると、当然ながら従業員はその理由を労務担当者に確認しようと考えるでしょう。
従業員の生活に直結する問題ですから、給料計算担当者の責任は重く、一つのミスが大変な事態を招くことは容易に想像できます。担当者には、税区分を正しく理解した上で、給与計算をすることが求められます。
税区分の違いによって何が変わる?
税区分が違うと、同じ所得を得たとしても、支払う税金の額が変わってきます。
給与所得の源泉徴収税額表(令和3年分)の日額表を例にとると、仮に日給1万円を稼いだ場合、以下のような税額の違いが発生します。
- 甲欄で扶養家族0人の場合:280円
- 乙欄に該当する場合:1,800円
- 丙欄に該当する場合:27円
参考:国税庁「「給与所得の源泉徴収税額表(令和 4年分)」」
単純に税額だけを見るなら、丙欄がもっとも支払う税金が少ない計算となります。
もちろん、支払額が少ない理由があるからなのですが、正しく税区分を理解していない場合、後々になって税金を納めなければなりません。
例えば、丙欄と乙欄のどちらに該当するかを誤って計算していた場合、1,773円の差額が発生することになります。
仮に、これを10人・100人単位で間違えると、莫大な金額の追徴課税に発展するおそれがありますから、十分注意が必要です。
月額表と日額表、それぞれの税区分の違いについて
所得税の源泉徴収における税区分を把握する前に知っておきたいのが、月額表と日額表の違いです。
源泉徴収税額表は、給与の支払いが月単位なのか日単位なのかによって分かれており、税区分にも若干の違いがあります。
以下に、月額表と日額表について、それぞれの違いをご紹介します。
月額表
月額表に記載されている税区分は2種類で、甲欄と乙欄が設けられています。
月額表は、原則として給与の支払いが月単位の場合に適用されますが、以下のようなイレギュラーケースも当てはまります。
- 半月ごとに支払う給与
- 10日ごとに支払う給与
- 月の整数倍の期間ごとに支払うもの(隔月・四半期・半年ごと)
ちなみに、賞与を支払うにあたり、以下の条件のいずれかにあたる場合も、月額表が適用されます。
- 前月中に給与の支払いがない
- 賞与の金額が、前月中における給与の金額の10倍を超える
日額表
日額表に記載されている税区分は3種類で、甲・乙・丙欄が設けられています。
名称の通り、日額表は基本的に給与の支払いが日単位、もしくは日雇賃金の場合に適用され、以下のイレギュラーケースも当てはまります。
- 週ごとに支払うもの(日雇賃金を除く)
- 月の給与を日割で支払うもの(日雇賃金を除く)
日雇賃金とは、日々雇い入れられる人が、労働した日または時間によって算定された給与のことで、労働した日ごとに支払を受ける給与のことです。
仮に、労働した日以外の日に支払われる場合も、日ごとの算定であれば日雇賃金となります。
ただし、普段勤めている職場が1か所であり、そこから「継続して」・「2か月を超えて」給与等が支払われた分については、日額表の対象とはなりません。
参考:国税庁「No.2511 税額表の種類と使い方」「給与所得者と税」
甲・乙・丙欄それぞれの税区分の違いについて
月額表には甲・乙欄、日額表には甲・乙・丙欄の3種類の税区分があります。各区分がどのようなスタッフに適用されるのか、以下に基本的なルールをまとめました。
甲欄の税区分
甲欄の税区分が対象となるスタッフは、事業所に「給与所得者の扶養控除等申請書」を提出していることが条件です。
具体的には、社会保険料が天引きされているパート・アルバイトスタッフ、自社で年末調整を行うスタッフが該当します。
よって、継続的に給与を支払っているパート・アルバイトスタッフについては、原則として甲欄が適用されることになります。
ただ、一部例外もあり、その例外に対応するために乙欄が存在します。
参考:国税庁「No.2520 2か所以上から給与をもらっている人の源泉徴収」
乙欄の税区分
乙欄の税区分が対象となるスタッフは、事業所に「給与所得者の扶養控除等申請書」を”提出していない”ことが条件です。
スタッフに申請書を提出することを義務付けている企業の場合は、基本的に乙欄を使う場面はありません。
それではどのような場面で必要なのかというと、以下のようなケースが対象となります。
- 2か所以上の企業から給与の支払いを受けている場合
- 従業員が給与所得者の扶養控除等申請書を提出していない場合(失念等)
労務担当者が注意しなければならないのは、ダブルワークをしている自社の働き手で、働き手にとって自社の職場がサブとして扱われているケースです。
自社に対して給与所得者の扶養控除等申請書が提出されていない場合、あらかじめスタッフに事情を確認しておかなければ、トラブルに発展するおそれがあります。
参考:国税庁「No.2511 税額表の種類と使い方」
丙欄の税区分
丙欄は、日雇労働者や短期雇用者に適用されるものです。日額表に存在する税区分で、月額表にはありません。
パート・アルバイトに対する日給・時間給にも用いられ、あらかじめ雇用契約の期間が2か月以内と定められている場合、丙欄を使って税額を求めます。
商品陳列のオープニングスタッフなど、ごくわずかな期間だけ働いてくれたスタッフの給与計算などが想定されます。
短期アルバイト・単発バイトに関する源泉徴収については、こちらの記事で詳しく解説しております。ぜひ参考にしてみてください。
参考:国税庁「No.2511 税額表の種類と使い方」
税区分を考える際の注意点
甲・乙・丙欄のいずれを適用するかについては、スタッフの希望を一度把握してしまえば、その後の処理に悩むことは少ないでしょう。
しかし、アルバイト→正社員、もしくは正社員→アルバイトへと働き方が変わったスタッフがいた場合、税区分の変化に注意が必要です。
具体的には、乙欄から甲欄への適用、または甲欄から乙欄への適用となり、確認すべき金額・用意する源泉徴収票の枚数が変わってきます。以下に、それぞれのケースについて考えてみましょう。
乙欄から甲欄に変更となるケース
もともと乙欄が適用されていたということは、新しく勤める職場では扶養控除の申請をするが、過去の職場(他社)ではアルバイト等として乙欄のまま税金を納めていたものと推察されます。
その場合、自社では【乙欄+甲欄】という形でそれぞれの給与を合算し、年末調整→源泉徴収票の発行という流れになります。
このとき、源泉徴収票の摘要欄には、以下の情報を記載します。
- 他社が支払った給与の総額、源泉徴収税額、給与から徴収した社会保険料の金額
- 他社の所在地、名称
- 他社が「主たる給与の支払者」でなくなった年月日
甲欄から乙欄に変更となるケース
自社スタッフの税区分を甲欄から乙欄に変更するということは、そのスタッフがメインで働く会社が別の会社になったものと想定されます。
そのため、スタッフには甲欄・乙欄それぞれの源泉徴収票を発行します。
また、源泉徴収票には、甲欄・乙欄それぞれで以下の内容を記載します。<甲欄が適用されていた期間の源泉徴収票>
- 支払金額・源泉徴収税額
- 社会保険料の金額
- 主たる給与等の支払者でなくなった旨及びその年月日(摘要欄に記載)
<乙欄が適用されていた期間の源泉徴収票>
丙欄から甲欄に変更となるケース
自社によるスポット雇用が2ヶ月を超えて継続している場合や、意欲を認められ正社員となった場合、丙欄から甲欄へと税区分が変更となります。
このような場合、丙欄で計算した源泉徴収額は、年末調整に含む形で計算されます。
パート・アルバイト雇用の面倒な労務を自動処理する方法
ここまでお伝えしてきた通り、パート・アルバイトスタッフの税区分は比較的面倒な部分が多く、処理に精通している人材が少ないと大きな失敗につながるおそれがあります。
甲・乙・丙と複数の税区分の人材が勤務している職場で、スタッフそれぞれで働く日や時間が異なる丙欄を適用する場合、労務担当者にとっても少なからず負担となるはずです。
そこで導入を検討したいのが、労務の自動処理ができる仕組みの導入です。
一例として、当社のお仕事アプリ「matchbox」を導入すれば、以下のことが実現できます。
「単日雇用」×「パートナー登録」でずっと続くスポット勤務体制
matchboxは、様々な事情で働くタイミングが限られる人材を、店舗や現場に適宜補充できる仕組みを備えています。
具体的には、OBOGやギグワーカーの情報を、単日雇用者として登録できる機能が該当します。
シフトレベルで求人情報を投稿できますから、登録者に対してスピーディーにシフト情報が提供され、日程調整もスムーズに進められます。
多くの単日労働者を、貴重な戦力として継続的に雇用しつつ、スポット勤務体制を構築できるのです。
「単日雇用の労務」に特化
matchboxには、さまざまなスタッフを戦力としてストックできることに加えて、あらゆる種類の人材の労務も自動で処理できるというメリットがあります。
単日雇用者の労務に関しては、以下のことが自動で処理されます。
- 労働条件通知
- 給与計算(乙/丙)
- 源泉徴収票
- 給与明細/即払い など
また、常勤者の勤怠・労務管理については、現在利用しているシステムをそのまま活用できます。
迅速な採用と適切な処理の両立、これがmatchboxの特徴と言えます。
まとめ
パート・アルバイトの所得税計算で押さえておきたい「甲・乙・丙」の税区分は、ポイントを押さえて理解できれば、適用はそれほど難しくありません。
ただし、丙のスタッフが極端に少ない場合・逆に多数存在する場合は、他の税区分と混同しないよう注意しましょう。