スマホやパソコンなどの端末から、労働者が気軽にインターネットにアクセスできるようになったことで、アルバイトでも労働基準法に関する知識を得ることが容易になりました。
また、労働者が雇用主・人事の対応に不満があった場合など、SNSで急速に問題が拡散されてしまうリスクも新たに生まれています。
そのため、労働基準法違反・その他トラブルを避けるための施策は必要と言えます。この記事では、アルバイトを雇用する際に雇用主・人事側が知っておきたい、労働基準法の知識についてご紹介します。
労働基準法とは?
労働基準法は、罰則も含めて全13章で構成されており、すべてをもれなく頭に入れるのはかんたんなことではありません。
しかし、労働者を雇う以上、雇用する側は労働基準法を遵守しなければなりません。
まずは、労働基準法の基礎知識と、アルバイトの採用にあたり特に注意すべき点について解説します。
労働基準法はどのような法律なのか
そもそも、労働基準法は労働条件の最低条件を定めるものであり、強行法規です。
すなわち、雇う側が「絶対に守らなければならない」法律であり、雇う側・雇われる側双方の意思によって柔軟に変更できるものではありません。労働基準法が強行法規とされているのは、企業等に比べて弱者となる労働者の立場を保護するためです。
現代では、いわゆる「ブラックバイト」を見分けるため、アルバイト労働者が知識を身に付けている例は少なくありません。
労働基準法の各章では、何が定められているのか
労働基準法は、13章というボリュームから成り立っております。
それぞれの章で何が定められているのかをあらかじめ知っておけば、アルバイトの採用・雇用にあたり疑問となる点を確認しやすくなるので、下に章の概要を載せておきます。
第一章 総則
→労働条件の原則や男女同一賃金の原則、中間搾取の排除、使用者・労働者といった法律内で用いられている単語の定義などが記されている第二章 労働契約
→有期労働契約の年数、労働条件の明示、解雇制限など、労働者の契約に関する重要な項目が記されている第三章 賃金
→最低賃金、休業手当など、賃金に関するルールが記されている第四章 労働時間、休憩、休日及び年間有事休暇
→労働時間の基本的な考え方、変形労働時間制、いわゆる三六協定、年次有給休暇などの項目が記されている第五章 安全及び衛生
→労働者の安全及び衛生について定めている第六章 年少者
第六章の二 妊産婦等
→未成年者の労働契約や、妊娠中の女性及び産後1年を経過しない女性に関する就業制限等を定めている第七章 技能者の養成
→徒弟・見習などの理由で労働者を酷使しないことや、技能習熟と関係ない作業へ従事を禁止することなど、職業訓練に関する特例などがまとめられている第八章 災害補償
→療養補償、休業補償など、各種補償に関する内容がまとめられている第九章 就業規則
→就業規則作成・届出の義務、制裁規定の制限(減給)などに関することが記されている第十章 寄宿舎
→労働者が複数人宿泊し、共同生活している「寄宿舎」運営に関する事項が記されている第十一章 監督機関
→労働基準主管局や局長、労働基準監督官の権限、労働者の監督機関に対する申告等について記されている第十二章 雑則
→法令等の周知義務、労働者名簿や賃金台帳に関することなどが記されている第十三章 罰則
引用元: e-GOV法令検索「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)」
→規程違反者の処遇について記されている
アルバイトを雇用する際に注意したいポイント
雇用主・人事側がアルバイトを雇用する際に注意したいのは、労働契約や賃金、有給休暇に関する知識を確実に頭に入れておくことです。
「アルバイトだから稼ぎたいだろう」という思惑から気軽に残業を頼むのはもとより、サービス残業の依頼や有給休暇の申請を妨げるようなこともNGです。
時間給で働くアルバイトスタッフは、自分が労働した分の給与は確実にもらいたいと考えています。深夜労働はできるか・休みたい日に休めるかどうかなど、働く時間帯・シフトに注目している人も少なくありません。
有給休暇を取りたいと思っても、職場の雰囲気が悪いと、申請しにくいと考えて別の職場に転職してしまうスタッフが出てくる可能性もあります。
アルバイト雇用に関しては、契約・賃金・休暇の三要素をきちんとカバーしつつ、法律違反を指摘されないよう注意したいところです。
アルバイト雇用等で労働基準法違反となりえるケース
アルバイト雇用にあたり、スタッフを「アルバイトだから」という感覚で軽く見て、契約・賃金・休暇について軽んじた対応を行うケースは少なくありません。
間違った認識で採用・雇用を続けていると、後々になって元スタッフから労働基準法違反の被害を申告され、是正勧告を受けるリスクがあります。そこで、アルバイト雇用等で労働基準法違反となったケースについて、以下にいくつか事例をご紹介します。
似たような状況が店舗・職場で確認された場合は、すぐに改善しなければなりません。
賃金不払い残業の強要
某スーパーマーケットの事例で、経営会社の代表取締役が割増賃金を支払わなかったケースです。
(引用元:労働基準監督署対策相談室)
労働基準法では、法定労働時間(1日8時間・1週間40時間)を超えて労働者を働かせた場合、割増賃金を支払う必要がありますが、この会社は割増賃金を支払っておらず、しかも労働者数は32名という多さでした。
これについて、江戸川労働基準監督署労働基準監督官が割増賃金の不払につき是正指導し、措置を行った結果を是正報告するよう求めていました。
会社側が、代表取締役が部長・課長と共謀して虚偽の内容を記載した是正報告書を提出した結果、書類送検となっています。
こちらはきわめて悪質なケースではありますが、同様に割増残業代を支払う要件について知らないまま残業代を支払っている職場では、スタッフから指摘を受ける可能性があります。
残業代不払いとなることのないよう、給与計算については適切に行いましょう。
塾でのアルバイトにおける「コマ給」
某学習塾でアルバイトしている大学生に対して、授業前後の準備・報告書作りを行っていた時間の賃金を支払わなかったケースです。
(引用元:日テレNEWS24)
この学習塾では、授業一コマあたり1,500円の賃金を支払うという、いわゆる「コマ給」という形で賃金を支払っていました。
しかし、大学生側の申告後、事前準備や報告書作成の時間は賃金が発生するものと労働基準監督署が判断し、学習塾は6ケ月分の未払賃金220,000円を支払うことになりました。
おそらく、申告以前は慣例として通用していたものと推察されますが、自社で時給が発生するおそれがある業務を今一度見直すのも良いでしょう。
有給休暇を取得させていなかった
給食管理業の会社が有給取得の義務化を行わず、店長3名が書類送検されたケースです。
(引用元:労働新聞社)
年次有給休暇が10日以上付与されている労働者6人(パート・アルバイトスタッフ含む)が対象で、労働者は1日も有給が取得できていなかったとのこと。
こちらの職場はシフト制で、代理を立てなければ休みがもらえないことが通例となっていたため、労働者が有給を取得できない状況にあり、今回の問題につながったものと推察されます。
スタッフ採用の観点から柔軟な対応ができなかったことが、問題の本質にあるのかもしれません。
労働基準法違反やトラブルを起こさないためには
労働基準法違反・労働基準法の解釈に関するトラブルなど、アルバイトスタッフとの間に不協和音が生じないようにするためには、どのようなことに注意すべきなのでしょうか。
以下に、パート・アルバイト人材の雇用で注意したいポイントをお伝えします。
社内全体で労働基準法への意識を向ける
他の法令もそうですが、労働基準法は日々変化する雇用情勢に応じて改正されています。
そのため、何も知らないまま既存の規則・慣例の適用を続けていると、後々になってスタッフから労働基準法違反の被害を申告されてしまうおそれがあります。
また、人事担当者が労働基準法について理解を深めても、他の各部門の役職者が同様のスタンスで仕事に臨んでいるとは限りません。
定期的に研修を行うなど、労働基準法遵守に向けて社員全体で意識を高める工夫が大切です。
条文よりも「事例」を学ばせる
限られた時間の中で研修を行う場合、条文の変更点に触れつつ指導するよりも、自社と似た業種・職種の事例を学んだ方が、参加者が状況をイメージしやすくなります。
可能であれば、専門家を招いて研修を行うことが望ましいですが、人事側で資料等をまとめる際は、事例紹介にポイントを絞ることをおすすめします。
事例を理解していれば、法令を読み込む暇がない役職者たちも、店舗・部門レベルで以下のような注意点を共有することにつながります。
- 契約時に伝えるべきことは何か
- 賃金支払い時のルールは理解できているか
- 有給休暇や健康診断の実施状況は問題ないか など
アルバイト採用に特化したツールを導入する
毎年法令が変わる可能性があることを想定すると、その都度、必要な書類のフォーマットや社内での手続きを変更する必要があり、勘違いやミスも発生しやすくなります。
そこでおすすめなのは、アルバイト採用に特化したツールを導入することです。
当社のお仕事アプリ「matchbox」では、多くのアルバイト採用者を管理する機能を備えており、労務管理や給与計算に関して自動処理が可能で、担当者の手間や労力を削減することができます。
効率的なアルバイト採用・管理を実行したいとお考えの方は、ぜひ導入をご検討ください。
まとめ
労働基準法違反となるケースは、どの会社にも少なからず転がっているおそれがあります。
過去の慣習が現在も採用されている職場では、管理職だけでなく古参社員の再教育が必要になることがありますから、会社全体で労働基準法違反を許さない雰囲気作りが大切です。